【小説】another stay home 〜ver.brave make〜
「いいじゃないか明日くらいゲートボールやっても…」
「いいわけないでしょ!」
コロナの影響でゲートボールが出来ない。やろうとすると今みたいに娘に叱られる。
老い先短い人生。コロナにかかろうがかからまいが寿命で死ぬのに何故やりたいことをやらせて貰えないのか。
「お父さんがかかって、友晴や風香にうつしたらどうするの!」
「そりゃあそうじゃけど…。外でやるんだし大丈夫じゃろ。」
「そういう問題じゃないの!大体お父さんは外出る時マスクもしないし、危機感が足りないのよ!」
娘の一言一言にドスがきいていて堪える。
ワシはただいつも通りゲートボールがしたいだけなのに。
「ウケる。」
孫の風香はスマホを弄りながら客観的に馬鹿にしてくる。
昔はお爺ちゃんお爺ちゃんと懐いてたのになんかギャルっぽくなってしまった。
最近彼氏と別れたのに彼氏ができたようで隣の部屋のワシに壁伝いで声が聴こえてくる。
しかも総書記と付き合ってるようじゃが、総書記って北朝鮮の総書記なのじゃろうか。
「ウケるな風香よ。総書記とまたLINEでもしとるのか?」
「うっざっ!話しかけてくんな爺ィ。」
「こらっ!風香っ!お爺ちゃんにその口のききかたはないでしょっ!スマホへし折るよ!!」
「はっ?うざっスマホへし折ったら私お爺ちゃんとゲートボールいってコロナかかってこの家で撒き散らすからっ!」
風香のスマホがへし折れれば、とりあえず風香とならゲートボールに行けそうじゃな。
「何ふざけたこと言ってるの!コロナかかったら家に入れないからねっ!」
この家は相変わらず賑やかだ。
家の居心地はいい。
婆さんが亡くなってワシの希望はないと思っていたが、ここまで賑やかだとなんだか絶望もないような気がして今は楽しく生きている。
だがやっぱりゲートボールがしたい。
「ただいまぁー。」
義理の息子の昭雄の声が玄関先から聴こえた。昭雄はコロナの今日も仕事。大変な身分じゃ。
スーパーの経営は今すこぶる調子が良いがいかんせん現場は忙しいようだ。
「お義父さん、これやりましょうよ!たまたまうちのテナントのゲームショップで買えたんですよ!」
昭雄はみんなのゴルフなるゲームをぷらぷら見せびらかしてきた。
「なんじゃそりゃ。ゴルフのゲームか。」
「そうそう。ゲートボールのシミュレーションですよ!これでコロナあけたらそこらのジジババぶっ飛ばせますよ!」
昭雄は娘と結婚してからよくうちに来ていたが、いつも陽気で色んなことを教えてくれた。
いい婿を持ったと思う。
「お父さん、それ俺もやりたい。」
「私も。」
「4人でやろう!母さんはあれな、キャディのコスプレなっ!これも売ってたんよ。」
孫達と昭雄は意気揚々だ。
「ざけんなばかっ!夕飯できたから早く着替えてきなさい!」
娘は相変わらずツンツンしておる。完全に婆さん似じゃ。
「えーっ母さんのキャディ姿みたかったぁ〜」
「キャディなら私やるよ。」
風香は意外とノリが良い。あとスタイルも。じじぃながらに最近目のやりどころに困っている。まじで。
「まじっ!?風香のキャディかぁーそれもいいなぁ。」
「馬鹿なこと言ってないで早く着替えなさい。」
「へいへーい。」
明日もゲートボールは出来なさそうじゃが、ワシは所謂リア充というやつなのかもしれん。
まだまだ老い先長くなりそうじゃ。
「風香そこで着替えないっ!!」
「いいじゃん、別に家族にパンツ見られてもなんとも思わんし。」
「いい加減にしなさいっ!ほら夕飯の準備手伝って!」
孫が結婚して家を出るまでは生きるか。
風香のパンティを横目にワシはそう思ったのだった。
お題「#おうち時間」