【小説】another stay home 〜ver.friend sunny〜
家遊びに磨きがかかっている。
楽しくて仕方ない。
みんなコロナでどうのこうの喚いているけれど、俺はコロナが流行ってくれたおかげで沢山休みができたので最高だと思ってる。
昨日もお父さんが買ってきたみんゴルで盛り上がった。
母さんだけブー垂れていたけれど、なんだかんだ父さんが買ってきたキャディのコスプレをしてみんゴルに参戦してきた。
父さんは姉ちゃんの分もコスプレ衣装を買ってきてた。
メイド服だ。
姉ちゃんはノリノリ。メイドがみんゴルってめっちゃカオス。
姉ちゃんや母さんを見る爺ちゃんの顔はキモかった。
このじじぃはまだまだ長生きしそうだなと思う。
「ともちゃーん、勉強終わったー?」
「終わったー。」
勉強は簡単。先生に教わるより教科書を読んで自習した方が身につく。
そろそろ5年生の内容に入ってもいいくらいだ。
でも小学校は教科書の勉強だけが全てじゃない。友だちと遊ぶことが勉強よりも重要なんだ。
遊んで遊んでこれでもかと遊んで仲良くなって楽しむ。これが小学生ってやつだ。
勉強はおまけみたいなもん。
大人の理とは違う。
勉強なんてできてもできなくてもぶっちゃけどっちでもいい。
早くみんなに会いたい。
会いたいけど、みんなに会う前に色んな遊びを極める。
色んな遊びを極めれば人気者になれる。
俺、実は人気者の座を狙ってる。今は茂ちゃんとか武彦とかが人気者の座についてる。
実は想いを寄せてるクラスのマドンナ優ちゃんは多分茂ちゃんか武彦のどっちかのことが好きだ。
優ちゃんは可愛いし見る目がある。
遊びがうまくて面白い茂ちゃんや武彦みたいな人気者のことが好きってのはセンスがいいと思う。
俺も優ちゃんとよく話すけど、まだまだ中堅の俺じゃ優ちゃんに好きになってもらえるまではいかない。
優ちゃんと手を繋ぎたい。チューがしたい。
姉ちゃんにバレたら何言われるか分かったもんじゃないけど、俺は密かに遊びを極めてる。
遊びで茂ちゃんや武彦に勝てれば俺だって人気者になれるはず。
「友晴ー、暇だから遊ぼうぜー。」
姉ちゃんが部屋に入ってくる。昨日のメイド姿だ。
「姉ちゃんメイド姿で寝たの?」
「寝た。」
「なんでや。」
「可愛いのと着替えるの面倒くさいのとあった。」
「えぇ…。」
「見て、総書記にサービスショット送ったら総書記拍手してたわウケる。」
姉ちゃんはケラケラと笑う。
総書記とは姉ちゃんに最近できた彼氏らしい。見た目が北の総書記似てるから総書記。
確かに似てるし、総書記の拍手は面白い。
こういう人気者の形もあるのかもしれない。
アホだなーって思いながら姉ちゃんを見る。
姉ちゃんは色々アホだけどすげぇ人気者だったんだよなぁ。
実は姉ちゃん、かつては遊びの天才と言われてた。足も速くて頭もかなりいい。弟の俺が言うのもなんだけど顔も可愛いしノリもいいから女の身にして伝説的な人気ぶりを誇っていた。
姉ちゃんの弟ってところと、勉強がまあまあできるってところで俺も今なんとか中堅でやってるけど、まだ何か一つ足りてない。
足遅いし、ジョークもそんなに言えない俺は頭を使って遊びでのし上がるしかない。
「OK姉ちゃん。遊ぼう。何する?」
「あえての囲碁だね。」
「しぶっ」
「ここまでくるともう囲碁だよ」
「そうなんか」
「囲碁上手いとモテるよ〜」
「まじ?」
「卍」
囲碁かぁなんだかルールもいまいち分かんないけどやってみるかぁー
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ボロ負けだった。いくらルールをきいてもいくらハンデを貰っても勝つことができなかった。
さすが姉ちゃん。遊びの天才過ぎる。
204戦目、姉ちゃんは総書記とLINEをしながら囲碁をしていた。完全に飽きている。
やる気は全く感じられないのに、勝てない。
「なんじゃ囲碁やってるのか」
爺ちゃんが入ってきた。
爺ちゃんは髭をさすりながら碁盤を見つめる。
「次は友晴の番か、どこに打つつもりなんじゃ。」
「うーん。どこだろ…。」
碁盤を見つめる。正直どこにおいても勝てる気がしない。
「十一の八…かな。」
「ほう…。面白い。どれそこに打ってみなさい。」
「う…うん。」
僕がそこに打つと姉ちゃんはノータイムで次の手を打ってきた。
LINE中にも関わらず、早い。そして強い。
いつになったら姉ちゃんに勝てるんだろう。
「どれ、ここから爺ちゃんに打たせてみぃ」
爺ちゃんはそういうと黒い石を僕の代わりに置いた。
「げっ、爺ちゃんかぁー。」
そう姉さんが言ってから勝負の局面は変わった。
たちまち僕・爺ちゃん陣営が優勢へと好転していく。
いつの間にか姉ちゃんはLINEをやめ碁盤に真っ直ぐ向き合った。
「ありません。」
姉ちゃんが投了した。
遊びの天才である姉ちゃんをあの劣勢な状態から倒すなんて…。やっぱり年寄りって囲碁強いんだな…。
「どれ友春囲碁を教えてやろう。本因坊秀作並の強さじゃぞワシは。」
「…うん。」
そこから爺ちゃんとの特訓は始まった。
最初はただの渋い遊びの一つってだけだったのに、俺はその深みにどんどんハマっていった。
囲碁をやればやるほどにすーっと優ちゃんとか人気者になるとかどうでも良くなっていった。
より強い棋士にかりたい。
神の一手に近づきたい。
そう思うようになった。
こうして俺の将棋棋士への道はここから始まったのだった。
お題「#おうち時間」