ハッピーアイスクリーム~自由を望む2人の民~

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【小説】ちょっとした出会い(タ)

かまいたちの楓。それが私の二つ名だった。高校生の時、親とつまらないことで喧嘩して、ぐれてしばらく不良になった時があった。私は自分でも驚くほど喧嘩が強く、喧嘩をふっかけてきた族をかまいたちが通ったかのように次々と潰していったことで伝説となり、かまいたちの楓となった。
そんな私も高校3年生になってからはすっかり丸くなり、今までの遅れを取り戻すために死ぬほど勉強して大学に合格した。大学が始まる前の春休みにはもうかまいたちの楓が私であることを知る者はほとんどいなくなった。かまいたちの楓という二つ名は割と気に入っていたので少し残念な気もしたが、私にとって不良をやっていた時期は黒歴史なのでまあよかった。

普通の大学で普通の女子大生をやれることに胸をはずませていた私だったが、大学に入るとどこにも居場所がなかった。学科の女子の話にはおしゃれに鈍感なためついていけず、いくつか入ったサークルはつまらん男とその男にうつつをぬかしているつまらん女子ばかりだったため、退屈でやめてしまった。当たり前だが私に喧嘩を売ってくる奴は全くおらず、大学2年になった私にはラバーズヒルというカップルのためにあるような名前の芝生の丘の上で横になりながら、本を読むくらいしかやることがなかった。

そんな私に転機が訪れたのは大学2年も半年過ぎたある秋の日のことだった。

私がいつものようにラバーズヒルにて本を読んでいると私から少し離れたところに少し背の高い猫背の男が座り、カバンから漫画雑誌を取り出した。あぁ、この人も退屈な大学生活を過ごしているんだろうなとぼんやり考えながらみつめていると、男の読んでいる漫画雑誌が小学生向け雑誌のコロコロコミックであることが判明した。私は思わず
「えっ!コロコロコミック!?」
と結構大きな声を出してしまった。ラバーズヒルでいちゃつくカップルはいっせいにこっちを向き、ざわつく。私は周りにどう思われようと平気なのだが、私のせいでこの男にも周囲の視線が集中してしまったことに申し訳なくなった。しかしそんな私の気持ちとは裏腹に男は眠そうな顔をこっちに向け、少しの間ぼーっとした後、
「ジャンプもあるけど。」
とカバンから中高生向け漫画雑誌ジャンプを取り出した。
「いや、そういうことじゃなくて……ってかジャンプもあるのかよっ!」
……突っ込んでしまった。また周囲視線が男と私に集まる。しかし、先ほどと同様男は周囲のことなど気にも留めず、不服そうな顔でただ私を見つめ、
「なんだよ、コロコロやジャンプじゃ不満なのか?」
と、さらにカバンの中をごそごそと探り、青年向けの漫画雑誌ヤングジャンプを取り出した。
「これで満足かこのやろー。」
男はヤングジャンプを私にみせつける。この男どんだけ漫画雑誌を持っているんだ。
「いやっ、ちょっとその、驚いただけですので。」
と私が言うと、
「いやいや、俺はあれ、なんか馬鹿にされたような気がするぞ。お前、子どもだなこいつみたいな感じで上からみてるだろ。」
と男は急に突っかかってきた。サークルでいた男とは違うベクトルでめんどくさい。
「はいはい。分かりました。分かりました。ごめんなさい。ごめんなさい。」
私は男をいなし、これ以上絡まれないように男に背を向け、歩き始める。「おいっ!」
男の声がしたが、振り向かずに歩く。これ以上関わってると手を上げてしまいそうだった。かまいたちの楓と大学でまで呼ばれるようになったらお嫁にいけなくなる。

コツンッ。

何がが私の後頭部に当たった。 足元をみるとチラシで作られた紙飛行機が落ちていた。

コツンッ。

再び後頭部に小さな衝撃が走る。足元の紙飛行機は二つに増えていた。後ろを振り向くと、男は三つ目の紙飛行機を私に向けて投げた。紙飛行機はまっすぐ進み、再び私の胸に当たり落ちた。私は茫然とした。そんな私に向かって男は四つ目の紙飛行機を投げた。紙飛行機は再び私の胸に当たりそうになるが私は手刀でなぎ払った。そして地面に落ちた四つの紙飛行機を持って男の隣に座った。不思議と男に対して怒りは湧いてこなかった。逆に男に対して少し興味が湧いた。しばらく沈黙が続く。男は何事もなかったかのように先ほどのコロコロコミックを再び読みはじめ、にやにやした。
私がちらちらと男を見ていると、男は
「……ほれっ。」
とカバンから雑誌を取り出し、渡してきた。なんだろうと、私はそれを受けとって中身を見る。何ページかぺらぺらめくって、私は渡された雑誌がエロ本であることに気づいた。
「なっ、なんだこれは!なっ!」
私は先ほどよりも大声を上げる。背中からどっと汗が噴き出した。そんな私に構わず、男はコロコロコミックを読み続ける。
「おいっ!なんなんだ一体!」
動揺したまま私は再び声を荒げる。
男はきりがいいところまで読んだのかコロコロコミックをゆっくりと閉じ、不思議そうな顔をゆっくりと私に向ける。
「?こういうことじゃないの?」
「こういうことってどういうことだ!」
耳たぶが熱くなる。
「そういうこと。」
男はカバンからジャンプを取り出し、読み始める。
「はあっ!?」
私は意味が分からん男の言動にただただ動揺する。20人くらいの族に囲まれた時でさえ動揺しなかった私だが、今は馬鹿みたいに心臓がばくついてる。「大人の雑誌が読みたいんじゃないのか?」
男はジャンプのページをめくりながら訊いてくる。
「なっ!そんなわけあるかぁ!お前っ!これっ!セクハラだぞっ!」
私は男に雑誌を投げつける。スッと男は雑誌を華麗に避ける。男が顔を上げる。なんともアホっぽい、呑気な面をしている。
「なんだよセクハラって……てか鼻血でてんぞ。」
男はすっとポケットからティッシュをだして私に差し出す。
「なっ!鼻血なんてっ!」
そう言いながら鼻の下を触るとぬめりと温かい感触がした。
「うわっ!なんでっ!」
と私は自身の鼻血に驚くと、男は
「早く顔ふけよ。」
と言った。差し出されたティッシュを受け取り、ゴシゴシと拭いたのち、鼻に詰める。しばらく動揺したが男がまたジャンプを読みはじめたため、私は徐々に落ち着きを取り戻した。 男は「それやるよ。」
とジャンプから目を離さずに言った。「いっ、いらねぇ!」
と私は拒否するとそうかといい男はカバンにエロ本をしまった。
長い間沈黙が続く。男があまりにも集中してジャンプを読んでいるもんだから、私は何も話すことが出来ず、そわそわとするだけだった。
そろそろ帰ろうと思った私は男に名前を尋ねてみた。
男は「別能 祐介」と答えた。
「そっ、そっか。私は穂苅 楓!」
私が名乗ると別能は
「あーそう。穂苅ね。ういーっす。」とめんどくさそうに、適当な返事をした。私は結構適当に流されることに対して怒りを覚えるタイプなのだが、今日はなんだか疲れてしまって許してしまった。そういう空気感が別能にはあるのかもしれない。私はジャンプを読み続ける別能に別れを告げ帰った。本当は連絡先を交換しようかなと思ったのだが、あの時はそういう雰囲気ではなかったし、また会える気がしたので次の機会にすることにした。この日の出会いが後々私の大学生活を大きく変えていったのは言うまでもない。

 

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