【小説】げん担ぎ
こんにちは!
タクです。
6連勤空けの久々の休日。でもまた明日から仕事…。
次の休みはいつになるのか未定。
疲れが癒えない休日ですが、今日は今後のことを占ってもらおうと、占い屋へ行く予定です。
その記事に関しては明日また通勤の中投稿しようと思います。
閑話休題。
今回はお題が更新されたのでお題で小説を書いてみました。
「ゲン担ぎ」ってお題だったのですが、うーむ中々小説にするのは難しい…。
頭を捻りながら作りました!是非最後まで読んでください!
・
・
・
「またカツか。朝からカツサンドはちょっとなぁ…。」
「しょうがないじゃない。ゲン担ぎよ。ゲン担ぎ。」
俺のため息混ざりの呟きに、妻がいそいそと食事の用意をしながら応える。
「でももう3日連続だぞ。俺こないだの健康診断で高血圧だったのに…。」
「あなたの将来より、悠の将来のが大切だもの。」
「なんだよそれ…。」
健康診断直後は散々生活習慣がどうのと文句を言っていたのに。
「いっただきまーす!」
でもまあいいか。悠が美味そうに食って、元気がでるのであれば。
今日は息子悠の受験三日目だ。
受験前日から串カツ、チキンカツ、そしてカツサンドと朝ごはんが続いている。
二つの意味で胃が痛い日がまだ三日もある。
多分五日目の朝はあいつの好きなとんかつだ。
とんかつ…。一番カロリーが高いものを最終日に食べるのにはぞっとするが、それでも悠が楽しみにしているのをみるとしっかり食べようと思う。
中学受験をさせるのに最初は反対していた妻。息子にはのびのびと育って欲しいと言っていた。
でも学歴社会といわれる世の中。
早いうちから学ぶ環境を整えるのが親の務めだと思った俺は妻にテレビをみせ、雑誌を読ませ、無料相談会へと何度も何度も一緒に赴き、なんとか説得した。
今じゃ俺より妻の方が躍起になっている。
幸い息子の悠は勉強に対して抵抗がなく、むしろ好奇心旺盛なところが功を奏し、受験当日の今になるまで前向きに受験生活を過ごしていた。
小学生なら友だちともっと遊んだり、ゲームしたりしたい歳頃だろうに、親の期待に応えようとしている息子をみると、なんだかどちらが子どもなのだか分からなくなりそうだ。
俺がゆっくりカツサンドを食べていると、悠と妻はもう行く時間だからといって、支度を済ませ、家を飛び出した。
「頑張れよ。」
俺がそう言うと
「もちろん。」
と自信ありげの悠がピースサインをした。
悠の志望校の決め方は少し特殊だった。
受験では大抵、偏差値順に志望校を決め、第一志望校を中心に勉強のスケジュールや受験のスケジュールを決める。
なので第一志望校の勉強量は多くなり、滑り止めの学校の勉強量は少なくなる。
受験の日取りもなるべく第一志望の学校で全力が出せるよう、第一志望校前の受験はそれなりに安全な滑り止め校にし、負担を軽減する。そうして確実に第一志望に受かる手立てを決めていくのが定石だ。
でも、悠の場合、偏差値で学校を選んでいない。
野球が強いから。
海外への研修旅行があるから。
可愛い子がたくさんいて、制服が可愛いから。
家から近く、偏差値が高いから。
学生寮があり、寮の施設も充実しているから。
と各々の学校ごとにそれぞれ志望理由が異なり、どれも悠にとって第一志望の学校足りうる学校となっている。
俺も妻も、塾の先生も、その志望校の決め方には最初は反対していたが、どれも悠自身がそれぞれの学校について深く調べ決め、悠の成績もどの学校にも受かるほどのものだったので、最終的には本人の意向を尊重することとなった。
明日には初日受けた学校の合否が出る。
偏差値の高い学校ではあったが、多分受かっているだろう。
カツサンドをお茶で流し込み、会社に行く支度を整える。
俺は悠のように、自分で自分の進路を決めたことがあっただろうか。
ふとそんなことを考えたが、進路を自分で決めてなくても、今ある環境が俺にとって大満足の幸せなものだったので、深くは考えなかった。
「いってきます。」
誰もいない家に小声で呟き、俺も家を出る。
・・・
「ただいま。」
家に帰ると、悠は社会の教科書をじーっと読んでいた。
「おかえりー。」
悠はいつものように返事をする。その様子だと、今日の受験もまあまあうまくいったのだろう。
「明日の勉強か?」
「んー。そんなとこ。今日歴史でつまずいちゃったからね。復習してるんだ。」
「そうか。あんまり根気詰めすぎないようにな。」
「うん。分かってる。」
社会の教科書をじーっと読み続ける悠。泣いても笑ってもあと三日だ。
どの学校に行くにしろ、悠の好きなことができたらいいなと思う。
自分の好きなように生きて欲しい。
今さらだが、子どものうちは偏差値なんて気にせずに、好きなことをすればいいって気がしている。
悠にとってそれが私立校への進学なのだろうが、そうでなくてもいいんだぞって無責任ではあるが、ちゃんと言うべきなんじゃないかと思っている。
「そうか、明日もカツ系の朝ごはんなのかな。」
「だろうね。早くとんかつでてこないかなぁ。」
「ははっ。悠は本当とんかつ好きだよなぁ。」
結局どうでもいい話しか出来なかった。
悠は明日に備えて寝支度を済ませ、寝室へ戻った。
俺はビールを飲みながらしばらくぼーっと過ごした。
「ねぇ、あなた。明日は1日目の合否よね。」
晩御飯の片付けをしながら妻は言った。
「そうだな。」
「受かってると思う?」
「受かってるんじゃないか?」
「…そう。」
「なんだよ。不安か?」
俺がそう訊くと妻は片付けの手を止めた。
「そりゃあねぇ。少しは不安よ。まだ受験途中なのに合否がでるのよ?不合格なのが分かったら後の試験にも響き出そうじゃない。」
「…そうだな。」
「大学受験みたいに気持ちを切り替える空き日もないでしょ?なんだか酷よね。まだ小学生なのに。」
妻は妻で大分心配してるようだ。
普段気丈に振る舞ってはいるが、かなり繊細な気性で、付き合う前からずっとそうだった。
どちらかというと俺の方が呑気な性格で、表面と内面では性格が逆だよねってお互い苦笑いすることもあった。
「大丈夫。大丈夫。受かってるって。心配なのはあいつの胃と腸と血圧だよ。」
そう冗談を言うと、妻は
「うん。そうよね…。明日はハムカツだからヘルシーだし、大丈夫よ。」
と笑って答えた。
ハムカツも揚げ物だし、何がどうヘルシー
なのかは分からないが、妻が笑っただけよしとしよう。
「ビールもう一杯飲んじゃダメか?」
「だめよ。コレステロール値も上がったら流石に笑えないもの。」
今度は真顔でそう言われて、なんだかなぁと思いながらも、いつもの妻の態度に安心する。
「それは残念。」
俺はそう言い、残った缶ビールをグビッと飲み自室へ戻った。
・・・
次の日の悠の合否は不合格と判明した。
その日は悠も妻も残念そうにしていたが、まだ四校もあるんだし、大丈夫大丈夫と笑って済ませた。
だがその次の日も不合格判定。
流石に少し凹んでいたが、受験もおわり、二人とも、まあそういう時もあるよねと言いながら家でゆっくりと過ごした。
だが次の日も、その次の日も、合否は不合格判定。
受験をした悠よりも、妻が酷くショックを受け、その日は部屋にこもりっぱなしで家事をしなかった。
代わりに俺がその日は家事を済ませたが、残る学校は一校。
これで受からなかったらと思うと気が滅入る。
妻も心配だが、悠のことが心配だった。
当の本人は受験結果はもういいといった具合でゲームをしていたが、本当のところは大分ショックなのではないだろうか。
受験などさせない方がよかったんじゃないか。若いうちに苦労しろとはよく言うものの、こんな子どものうちから辛い思いをして、将来に対して暗い気持ちになってしまうのならもっと子どものうちでしか出来ない楽しいことをさせた方がよかったんじゃないか。
無責任にぐるぐると感情が渦巻くが、その感情をどうすることも出来ず、妻が部屋に籠っているのをいいことに俺は缶ビールをその日
3缶空けた。
・・・
合格発表最終日。
結果は不合格だった。補欠合格に引っかかることもなく、悠の受験生活は終わった。
合否をみた悠は
「なーんだ、落ちちゃったかぁ。」
と何も気にしていない素振りをみせていた。
俺はそんな悠にかけてやれる言葉が思いつかなかった。
妻は相変わらず部屋に籠っている。どうしたもんかなと俺は考えた。
「お父さん、お願いがあるんだけど。」
俺があーだのこーだの考えていると、悠が口を開いた。
「なんだ?」
「とんかつが食べたい。」
「えっ?」
とんかつは受験最終日に朝ごはんで食べていた。一校目に受けた学校が不合格になったことで、少し雰囲気が暗かったが、それでも大好物を食べている悠は元気な様子だった。
「なんでとんかつが食べたいんだ?」
俺がそう訊くと悠は
「ゲン担ぎ、ゲン担ぎ。」
とにこりと笑った。
何がどうゲン担ぎなのかは分からなかったが、俺は部屋に籠って妻を無理矢理連れ出し、少し高めのとんかつ屋へと赴いた。
妻は疲れ切った顔をしていたが、悠に心配をかけまいといつも通りに振る舞った。
俺はそれがいたたまれなくて、目を背けた。
だが悠は受験結果など気にせずとんかつを食べるのに夢中になっていた。
もしかしたらわざと不合格になるようにしたんじゃないか。
そんな気もした。
だが、それはそれでいい気もした。悠が好きなように悠の進路を決めたのであればその方がいいと思った。
「僕ね、本当行きたい学校沢山あって、落ちちゃったのは悲しいって思うんだけどね、」
何も訊いていないのに、悠は話し始めた。
「うん。」
妻は悠をじっと見つめて、悠の話をきいた。俺も妻に倣うように、悠を見つめた。
「でも、とんかつは美味しかったんだ。また食べたいって思ったんだ。お母さんは、ゲン担ぎ、ゲン担ぎってとんかつを出してくれたけど、受験で受かるよりも、お母さんがそうやってとんかつを作ってくれたことの方が僕は嬉しい。」
悠はそう言った。我が息子ながら少しくさいセリフではあったが、心にじんわりと温かさがしみこんでいった。
「受験受からなくてごめんね。」
ゆうはそう続けて、再び美味しそうにとんかつを食べた。
妻に悠の言葉がどう響いたかは分からないが、俺にとって悠の言葉は救いだった。
好きなものを好きと言える、それが悠の強さなんだなって思うと、受験なんか受からなくたって悠はしっかりとやっていける。
ゲン担ぎのために作られたとんかつ。
でもそのとんかつはゲン担ぎなんかよりもずっと大切な意味があったんじゃないかなと思う。
高血圧で胃も結構痛いなぁって思ってたけど、その日食べたとんかつは人生で一番美味いと感じた。
・
・
・
いかがでしたでしょうか?
ちょっと無理矢理終わらせてしまった感が否めないなぁとは思うんですけど、まあしゃーないしゃーない……苦笑。
小説を書く腕をもっと上げないとなぁと思う日々。
相方ではないですけど、表現力や文章力をしっかり研究しなければと思いました。
それでは今日はこんなところで。
タクでした。