ハッピーアイスクリーム~自由を望む2人の民~

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【小説】無限夢中キミと僕幾千の世界

 

いつからだったか、もはや覚えてないが、いつまでも、僕とキミの世界の歯車は狂い続けている。

軋む音も聴かぬまま、世界は静かに変わり、無限に続く。

いつ噛み合うのか分からない歯車の中でキミの姿だけが鮮明に浮かぶ。

浮かんだキミの姿でさえもすぐにまた幻想と化し消えてしまうのだが。

 

目を閉ざすとまた見知らぬ世界にいた。

見慣れた見知らぬ世界。

昨日も一昨日もその前とも違う異質な世界。

異質が当然の世界。

 

当然の異質に辟易とすることはもうなくなった。

それがいつからだったかも覚えてないけれど。

 

キミを探す。

 

すぐに見つかる時もあれば終盤にしか見つからない時もある。

でも一度としてキミが見つからなかった日はない。

一度としてキミは同じキミではないけれど。

 

でもキミを見つけることでなんとか僕は僕でいることを自覚する。

僕が生きていてもキミがいなければ死んでいるのと同じだ。

キミは違えどキミがいなければ僕は僕を保っていられない。

 

「いた!探したよ。そろそろ行かないと。」

今日の僕はキミと既に知り合っていた。

キミに手を引かれ歩く。

「どこに行くんだっけ?」

と戯けて訊いてみると

「どこって…次のオアシスに決まってるじゃない!ボケてんの?」

とキミがぶっきらぼうに答える。

今日のキミと僕は近しい関係のようだ。

昨日は話せるようになるまで大分時間がかかった。

あたりが段々と暗くなる。

「ほら、閉まっちゃうよ。行きましょ!」

「うん。」

暗くなっていく街をでるとあたりは急に明るくなった。

振り返ると街はさらに暗くなっていった。

僕は前に向き直し、キミの長い後ろ髪を見つめながら歩いた。

「次のオアシスまでどれくらい?」

「そんなの分かるわけないじゃない。いつもそうでしょ?」

キミのいつもは僕のいつもじゃない。

「そうだったそうだった。早く着くといいね。」

「人ごとみたいに言うね。いつ死ぬか分からないんだからね私たち。」

キミと死ねるならそれもいいだろう。

「死なないように頑張ろう。」

キミに続いて歩みを進める。

 

ずんずんと足早に歩くキミ。

昨日のキミは歩くことさえままならなかった。

今日のキミは元気そうでなりより。

 

「ねぇ、今度のオアシスがさ、結構大きくてゆとりあるところだったらさ、結婚式を開こうよ。ゆっくりしてさ。」

この世界ではキミと僕は既に結婚していたのか。

「そうだね。大きくてゆとりあるところがあったら是非。」

「結婚してからずいぶん経つのにね。小さなオアシスしか見つからなかったからなぁ。」

「そうだね。」

「小さい頃は結構大きなオアシスもあったんだけどなぁ。」

キミはそういって空を仰いだ。

日は高いのにオレンジ色の空。

暑くはないけれど、乾燥した空気。

草木が見当たらない。

幾重にも分かれる狭い道をキミの後に続いて歩く。

てくてくと歩くも全然景色が変わらない。

道が長々と続いているだけ。

キミがいなかったらおかしくなってしまいそうなほど遠くまで何も見えない道。

空はオレンジ。周りはパステルな黄色。

 

キミの体温を右手で感じる。

 

歩いても歩いてもまだ道は続いていった。

キミも僕もかなり疲れていた。

お腹も減った。喉も乾いた。

キミの歩く速さが少しだけ遅くなった気がした。

 

「オアシスにはまだつかないの?」

僕が問いかけるとキミは

「あと3時間歩いてつかなかったらやばいよね。」

と応えた。

確かにあと3時間歩きつづけたら倒れてしまいそうだ。

「これだけ歩いてつかないってことはきっと大きなオアシスがあるんだろうけど、着かなかったら終わりね。」

そう呟くとキミは太陽に手をかざした。

この世界のキミは凛々しい。そしてとても力強い。

 

オアシスがどんなところで、何を基準にオアシスを見つけてるのか分からないけど、オアシスに着くまでは食べ物も飲み物も手に入らないことはなんとなく分かった。

キミの隣に行きたいけれど、キミの隣に道はなく、キミについていくことでしか歩を進めない。

この世界の歩き方は単純で空虚だ。

 

「ねぇ、あなたはさ、この世界についてどう思う?」

「どうって?」

「オアシスでしかまともに生きれないし、オアシスも大きくないと長くはいられない。オアシスがなくなる前にまた次のオアシスを探してさ、みつかんなかったら道半ばで存在が消えてしまうこの世界ってなんかおかしいよね。」

なるほど。この世界はそういう仕組みなのか。

「こないだはあなたが前、今日は私が前って順番に前を歩いて道を辿りながらオアシスを探してるけど、オアシスがみつかんなかったらあなたの顔をみることもないまま死ぬってさ、不条理な世界よね本当。」

「そうだね。」

「手の温もりだけがあなたのたよりだなんてさ、ロマンチックかもしれないけど残酷だと思うわ。」

キミは前しか向かないのではなく、キミは前しか向けないから振り返らずに進んでいたんだね。

「私、死ぬならあなたの後ろで死にたい。」

「それは僕だってそうだよ。」

「今日は絶対死ねないわ。」

「キミがそういうなら今日は絶対に死なないように歩こう。」

「言われなくても。」

「野暮だったね。」

心なしかキミの手の握る強さが強くなった気がした。

僕も強く握り返す。

 

僕らはそうやってずんずんと道を進んでいった。

 

1時間ほど時が経つと前を歩くキミの安堵した声が聞こえた。

「みつけた!今日も無事生き延びれそうね!」

 

キミのその声が聴こえるやいなや、オレンジ色の空が徐々に紫がかっていった。

乾燥した空気がほわんと緩くなる。

そして空の色が急に水色へ変わると、世界がぐわっと広がった。

「やった!大分広いわ!これなら1ヶ月は住めそうね!」

キミはそういって僕の方に笑顔で振り向いた。

前のオアシスで見た以来のキミの顔。

とても綺麗だ。

どこの世界でもキミは愛おしいけれど、今日のキミも相も変わらず愛おしい。

辿り着いたオアシスは、目覚めた時にいたオアシスよりもかなり広かった。食べ物も飲み物も潤沢にありそうなその街。

「飲み物と食べ物買いに行こう!たくさん飲んでたくさん食べて、一眠りしたら結婚式を開きましょう!」

「そうだね。」

キミの喜んだ笑顔が眩しい。

この世界でキミと結婚できるのは僕であって僕ではない。

もう会うことはできないけれど、また会うキミを想いながら、いつまで続くか分からない今日のキミを、僕はこの目を閉じる前に瞳に焼きつける。

 

〜〜〜

 

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